日本では、その個人が居住者であるか非居住者であるかによって納税範囲が大きく変わります。
特にこれから海外駐在を行う方や、海外に法人を設立して、今後は海外で事業を行うような方にとっては、非居住者に該当するかどうかは、税務上非常に大きな問題になります。
そこで今日は、日本における非居住者の定義、納税範囲、非居住者として認定されるために必要な考え方などについて説明していければと思います。
日本の税法における居住者・非居住者とは?
日本の所得税法では、居住者及び非居住者について以下のように定義されています(国税庁Q&A No.2875 居住者と非居住者の区分)。
居住者 | 国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人 |
非居住者 | 居住者以外の個人 |
上記から分かるように、国内に「住所」と「居所」を持つ者が居住者で、それ以外は非居住者です。
ここでいう「住所」とは、いわゆる東京都世田谷区〇〇町××番地…のような、単なる位置情報を表すものではない点に注意が必要です。「居所」についても住所と同様に、税務上特有の概念となります。
それでは住所と居所という概念について、より掘り下げて検討して行きたいと思います。
「住所」とは何か
ここでいう住所について所得税法には具体的な規定は無く、所得税法基本通達に定めがあります。
所得税法基本通達2-1では「住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定められています。つまり「住所」とは、その人の生活の中心がどこかで判定されるということになります。
最高裁判所昭和35年3月22日判決では、「生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般生活、全生活の中心を指すものであるところ」と判示しています。
最高裁判所昭和32年9月13日判決では、「一定の場所がその者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実態を必要とするものと解される」と判示しています。
なお、「生活の本拠」という判断基準だけだと不明確な部分も大きくなってしまうため、その人の住所がどこにあるかを判定するために、職業などを基に「住所の推定」を行うことになります。
「住所」の推定
1 国内に住所を有する者と推定する場合
国内に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定されます。
(1)その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2)その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること
※ 上記により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定されます。
2 国内に住所を有しない者と推定する場合
国外に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定されます。
(1)その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2)その者が外国の国籍を有しまたは外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業および資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと
※ 上記により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定されます。
ここで記載があるように、「住所」を検討する際に特に重要な概念には以下のものが含まれます。
- 国籍
- 1年以上居住することを通常必要とする職業
- 配偶者及び子供の同居の有無
- 資産や収入の国内割合
居所とは
「居所」は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」のことを指します。所得税法と所得税法基本通達に居所に関する規定は無く、過去の判例等から居所の解釈を検討する必要があります。
神戸地裁平成14年10月7日判決においては、「居所といいうるためには一時的に居住するだけでは足りず、生活の本拠という程度には至らない者の、個人が相当期間継続して居住する場所」をいうものと判示しています。
また、所得税基本通達 2-2 再入国した場合の居住期間においては、以下の記載があります。
国内に居所を有していた者が国外に赴き再び入国した場合において、国外に赴いていた期間(以下この項において「在外期間」という。)中、国内に、配偶者その他生計を一にする親族を残し、再入国後起居する予定の家屋若しくはホテルの一室等を保有し、又は生活用動産を預託している事実があるなど、明らかにその国外に赴いた目的が一時的なものであると認められるときは、当該在外期間中も引き続き国内に居所を有するものとして、法第2条第1項第3号及び第4号の規定を適用する。
上記に記載のあるように、出国したのが明らかに一時的な目的であると認められる場合には、海外に居る間も引き続き国内に居所を有するものとして判断されることになります。
UAEの税法における居住者・非居住者とは?
UAE内閣は2022年9月に閣議決定第85号を発表し、2023年3月1日以降、個人または法人がUAEの税法または二国間租税条約の目的上、UAEの居住者とみなされる場合の定義を規定しました。
閣議決定によれば、以下の場合にUAEの納税義務者とみなされます。
- UAEに通常の居住地または主たる居住地があり、経済的および個人的な利益の中心がある。
- 連続する12カ月間において、UAEに183日以上滞在していること。
- 連続する12カ月間に90日以上UAEに滞在し、UAE国民であるか、UAEで有効な居住許可証を保持しているか、GCC加盟国の国籍を保持している場合。
- UAEに永住権を保有していること。
- UAEで雇用を継続し、または事業を行っていること。
ここで注意が必要なこととして、UAEの居住者に該当するということは、それ自体が UAEで所得税の課税対象になるということを意味するわけではありません。
というのも、UAEでは個人の給与所得やその他の個人所得に対して所得税は課税されません。それは2023年6月以降にUAEで法人税が導入されたあとも同様です。そのため、個人がUAEの居住者であるという上記の条件を満たしている場合、通常UAEでの個人所得に対する課税の対象とはなりません。
UAEの居住者の定義は、UAEが他の地域と締結している二国間租税条約の下で、UAEの居住者としての立場をより明確にするものとして規定されるものとして解されます。
UAE法人税法上の「居住者」とは別の概念である
上記の閣議決定第85号に規定される「居住者」の定義とは別に、2023年6月から開始される法人税法においても、居住者・非居住者という概念は定義されています。しかしながら、これは法人税法上の課税対象者を判定するためのものであり、個人の居住者を判定するための意味合いとは全く異なるものであることに留意する必要があります。
法人税法上で規定される居住者とは、下記のように規定されています(UAE法人税法 第11条)。
第 11 条 – 課税対象者
法人税は、この政令法に基づいて決定された税率で課税対象者に課されるものとする。
この政令法の目的では、課税対象者は居住者または非居住者とする。居住者とは、次のいずれかの者を指す。
- フリーゾーンを含む、国の適用法に基づいて設立・承認された法人。
- 国家内で効果的に管理および管理されている、外国管轄区の適用法に基づいて法人化またはその他の方法で設立または承認された法人。
- 州内で事業または事業活動を行う自然人。
- 大臣の提案に基づいて内閣が発行する決定で決定されるその他の人物。
非居住者とは、上記の居住者以外の者のうち、いずれかに該当する人物を指す。
- UAE国内に恒久的施設を有する。
- UAE国内に国内源泉所得を有している。
租税条約上の日本及びUAEの居住者の取扱い
一般的に租税条約は、2国間で居住者に関して異なる規定を置いている国との二重課税を防止するため、個人および法人がいずれの国の居住者になるかの判定方法を定めています。
日本はUAEと租税条約を締結しており、UAEと日本間との2国間においては、下記のような判定基準でどちらの居住者になるかを判定することとしています。
個人については、①恒久的住居の場所、②利害関係の中心がある場所、③常用の住居の場所、④国籍の順で判定し、どちらの国の「居住者」となるかを決定します。
法人については、本店または主たる事務所の所在地、事業の実質的な管理の場所、設立された場所その他関連するすべての要因を考慮して両締約国の権限ある当局の合意により決定する場合もあります。
まとめ
ここまで記載したように、居住者・非居住者を検討するにあたっては、日本国内の税法だけでなく、UAEの法律や日本・UAE間租税条約についても検討のうえ、総合的に判断する必要があります。
弊社では、UAEでの居住者の地位をより明確にするために。現地税務当局(FTA)に対して。居住証明書の発行を手配することも可能です。
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